上勝阿波晩茶 – 乳酸菌発行で作るお茶 文化財に

上勝阿波晩茶は、徳島県上勝町の家々で古くから作られ、飲まれつづけられてきた発酵茶です。世界でも数えるほどしか類似例を見ない、乳酸菌を使った独自の発酵技法だけでなく、800年以上とも言われる長い時間を、このお茶と深く結びついた地元の人々の暮らしと文化が評価され、2021年3月に日本の重要無形民俗文化財に指定されました。地のものメディアでは、この晩茶に秘められた文化と歴史や、共に暮らしてきた人々を取材させていただくことになりました。

番茶と晩茶

阿波晩茶は、番茶と同じく「ばんちゃ」と発音されるのでよく同じものと勘違いされますが、製法の面からすると、別物です。そもそもお茶の葉というのは、細かな品種はあるものの、基本的には日本茶、紅茶問わず、実はすべて同じお茶の木から作られ、製法によってさまざまなお茶になります。新しく出た軟らかい新芽が煎茶と呼ばれる緑色のお茶なのに対し、番茶は新芽が生えた下の部分の、硬くなった葉から出来るお茶です。「番茶」という名前は「日常の生活で使うお茶」、「摘んだ順番を示す」などの由来から付けられたなど、諸説ありますが、「晩茶」については、「遅い時期に収穫される」、「単に番茶と区別するため」などの由来があると言われています。番茶、晩茶共に摘んだ茶葉を煮て(一部の番茶は炒る)後に、干して乾燥させて作るのですが、晩茶が番茶と大きく異なるのが、桶に半月~ひと月ほど漬け、乳酸菌発行させる点です。この乳酸菌発行により、他のお茶とは全く違う風味のお茶が出来上がります。

生まれた時から飲むお茶

阿波晩茶は、他のお茶に含まれるカフェインの量が非常に含まれないことが特徴で、妊婦さんが愛用し、生まれたばかりの新生児にも飲ませてきたお茶です。上勝町出身の人々に晩茶を飲んでいるかと尋ねると、性別、年齢に問わず、ほとんどの人が「生まれたときからずっと飲んでいる」と答えてくれ、古い風習を努力して残していこうということでなく、昔から当たり前のものとして地元の生活に溶け込んでいる本当の文化なのだと感じることができます。

産地 徳島県上勝町

産地である上勝町は、四国、徳島県の中西部に位置します。県内でも上位の水質で知られる広く美しい一級河川「那賀川」の上流に位置し、深い山々に囲まれた場所です。町内に数多くみられる棚田では、稲作が行われており、茶畑も田んぼの側にあることが多いように感じます。上勝町に住む人々の多くは晩茶を作るための茶畑を持っており、戦後には若い人々が連日助け合って各家のお茶摘みを手伝い、それぞれの家で漬けていたようです。

家ごとの風味のバリエーションが面白い

阿波晩茶の面白いところは、なんといってもその多種多様な風味のバリエーションです。上で紹介したように、上勝町の家ごとに摘まれ、微妙に違う漬け方で作られてきたため、香り、味、濃さなどが驚くほど違うのです。濃すぎる晩茶の風味はかなり個性的で、初めて飲む人は「苦手」だと感じることも珍しくないでしょう。逆に、この風味がクセになり、濃いものを好む人も少なからずいると言います。適度な薄さの晩茶は非常に飲みやすく、とても爽やかです。

風味の違いは、漬ける期間、気温、お茶の淹れ方、熟成させる時間など、さまざまな要因があります。家によって微妙に乳酸菌の種類が違うともいわれており、ワインのように自分に合った銘柄?を探すことも、阿波晩茶を楽しむ醍醐味だと言えるでしょう。上勝町の多くの家々では、お客さんが来た時に晩茶を淹れてもてなします。すでに町の多くの家や飲食店で取材させてもらいましたが、出していただいたお茶の風味の違いはすごく新鮮でした。

新たにお茶の木が植えられた茶畑

上勝の阿波晩茶づくり

上勝阿波番茶のお茶摘みは夏。農家の人々は、それまでは稲作と茶畑の草刈作業に大忙しだそうです。地のものメディアでは、「上勝阿波晩茶協会」の人々のご協力を得て、晩茶の生産する人、利用する人、家庭で飲む人々など、さまざまな人に関わらせていただきながら、この唯一無二の文化を記録しながら探求し、配信することによって、未来に残していくお手伝いが出来ればと考えています。このページも順次公開していく予定ですので、お楽しみに。

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