近くの川で鮎漁をする漁師が、夏に採って余った鮎を、地元の薪と炭で焼いて干した「鮎の焼き干し」。2週間と少し後、冬の澄んだ冷気の下で無事に美しく干しあがりました。カリカリになって干物感が出て、ほとんど重みを感じないくらい軽くなりました。これからこの鮎をダシとして、さまざまな料理に使っていこうということになりました。数日後の週末、最初に試したのは、この企画が始まったときから漁師がずっと考えていた、「鮎の骨酒」でした。
鮎の骨酒
骨酒とは
骨酒(こつざけ)とは、熱々に炙った魚の干物に、温めた日本酒をかけたものです。日本酒に魚のダシの香りが染み出て、飲みごたえのある一杯が出来上がります。本来は真鯛やフグのヒレが使われることが多いですが、今回は生の状態でもスイカやキュウリの香りが特徴的なキュウリウオ科である鮎を使う試みです。今回は比較対象用に近海産の真鯛も用意しました。
骨酒の作り方
日本酒と魚を加熱
骨酒の作り方は比較的簡単で、魚と日本酒の両方を加熱します。日本酒は湯煎、魚はフライパンなどで加熱もできますが、今回は雰囲気を含め味わいたいので、両方炭で加熱しました。日本酒はアルコールが蒸発するのをなるべく防ぐため、沸騰する直前で火から遠ざけ、魚は表面がチリチリと熱くなるまで、じっくりと火を通すのがポイントです。
日本酒は高いものでなくて良い
骨酒では魚の香りがお酒に染み込むので、使う日本酒は高価なものでなく、あえてクセのない一般的なものを選ぶことをおすすめします。高価なものを使うと、せっかくのそのお酒の香りが損なわれてしまうので、もったいないです。(実際に高価なお酒を使った後の結論です)
魚に日本酒を注ぐ
魚が十分に加熱されたら容器に移し、すぐに沸騰直前の熱燗を注ぎます。十分に熱された魚の表面に熱燗が触れ、「ジュッ」という音がすると美味しさが増すそうです。この企画のために購入した骨酒専用の容器もあり、凝りだしたら楽しいものです。魚がある程度浸かるまで日本酒を注ぎ、1~2分時間をおいて飲みます。気になる骨酒の味ですが、鮎の香ばしい香りがお酒に染みわたり、たまらない味わいを楽しむことができました。期待以上でした!
初酒、継酒、名残り酒
最初の一杯を飲み終えて終わりではありません。骨酒では、最初にひたした酒を「初酒(はつざけ)」と呼び、その後2回ほど魚に熱燗を注ぐことにより、ダシとアルコールの濃度の違った組み合わせを楽しむことができるのが醍醐味です。2度目は「継酒(つぎざけ)」、3度目は「名残り酒」と呼ばれます。初酒はダシの香りが最も強く、香ばしい風味を味わえます。熱燗でアルコールが適度にとんでいるので、飲みやすくもあります。継酒、名残り酒と数を重ねるごとにこの関係性が逆転し、最後の名残り酒はアルコールが強く、ほのかな香りになります。初酒は鮎の香りが強すぎると感じる人もいますが、継酒、名残りざけと伸び比べていくと、ちょうど良い組み合わせを見つけることができます。名残り酒を終える頃には酔っぱらっていました(笑)
最後に鮎をいただく
骨酒を堪能したあとの鮎。日本酒をたっぷりと吸った鮎をそのまま捨ててしまっては鮎に申し訳ない。そう思い、鮎をもう一度七輪であぶり、塩をふっていただきました。炭火でゆっくり焼き、冬の冷気で干して乾燥させ、日本酒を吸い、そしてさらに炙った鮎。軟らかく、香ばしく、お酒の甘味があり、一言で表現できない美味さで、感謝を込めて頭まで完食。お腹も好奇心も満たされた一晩でした。
鯛のヒレ酒、落ち鮎、旬鮎の比較
3日ほど使い、旬鮎、落ち鮎の骨酒、真鯛のヒレ酒を飲み比べてみましたが、鮎の骨酒は鯛のヒレ酒よりも香りが強く、香ばしい味わいを楽しむことができたように思います。初酒はダシの香りが強すぎて、鯛のヒレ酒の方が飲みやすいと感じる人もいるでしょうが、継酒、名残り酒と続ける間に評価も変わってくるのではと感じます。旬鮎、落ち鮎での違いについては大きな味や香りの差は感じられませんでしたが、最後に鮎を食べたときはやはり旬鮎に軍配があがりました。